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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

きょうが、特別な1日でなく

「オリンピックイヤーの幕が開いた」
そう書くだけで、胸の奥から熱いものが湧く。
4年に1度味わう、年明けの
快感。
そう、今年はリオデジャネイロ五輪の年だ。

北海道が誇る、日本陸上界女子短距離の至宝、
福島千里選手の公開練習が、1月5日に行われた。
福島①ショット.jpg

オープンから10年、全長130mのトラックを有する、
国内初の本格的インドア施設、
「ハイテクインドアスタジアム」は、
この日も快適な練習環境。
雪の舞う恵庭の街とは“別世界”だ。

慣れ親しんだホームスタジアムで
今年の練習はじめを行った福島選手。
スタンディングからの80mダッシュの後
ブロックを使ってのスタート練習、
福島スタート.jpg

さらに1mを超える高さのハードルを
連続して10本飛び越える練習、
福島ジャンプ.jpg

時におもり付きのベストを着けて、
福島ジャンプ(おもりつき).jpg

などのメニューを、チームメイトたちとこなしていく。

空気を切り裂くようなスピード感、
滑らかで無駄のないその動きにも目を奪われるが、
それ以上に注目してしまうのが、
走り終え、ゆっくり歩いてスタート位置に戻る、
傍から見れば、“なんでもない”時の姿。
直前の、自らの身体の動きを顧みながら
肉体と密度の濃い会話を交わす、とても大切な時間。

福島歩き②.jpg

「今、何の会話を交わしているんだろう」と
思いを巡らすのが、陸上競技の取材の醍醐味だと、
30年前の陸上少年は思っている。

練習後の会見。
福島囲み(横打ち).jpg

質問の中心は当然、3度目の五輪となるリオに向けての心境だ。
「20歳で初めて出た北京は、経験させてもらった五輪。
2度目のロンドンは、北京から1年、1年とやって迎えたけど、
『4年後の自分はどうなるか』ができなかった。
今回のリオは、ロンドンが終わってから、
『4年先の自分』を見据えて、ひとつひとつのことを積み重ねてきた。
リオに向かっていく中で、「その先」を考えて試すとかは一切やってない。
ぬかりなく、やるべきことを、全部やる。
本当に、本当に「このときのためにベストを尽くした」という五輪。
だから、結果にこだわる五輪です」

その言葉を聞くと、次は「リオは集大成、つまり、最後の五輪ということ?」
という質問になるのだが、
そこは持ち味のふんわりした空気を醸しつつかぶりを振って
「集大成とは思わないです。でも、まだこの先があるとも思ってない。
とにかく、ベストを尽くす、ということです」
続いて、自らの種目に例え、
「100m走だって、残り10mぐらいになって
『ラストだ!』って思うと走りのバランスが崩れるじゃないですか。
それと同じ感覚です」

余計な力みはいらない。
最高の結果を出すために、あくまで、そのときにベストなことをやり尽くす。
彼女の心の中にある
“絶対にぶれない、アスリートとしての軸”が垣間見えた。

リオで狙うは、決勝進出。
アジア人にとって並大抵の目標ではない。
「陸上短距離という、いわばDNAの勝負となる競技で
それができたら、メダルに匹敵する快挙だと僕は思う」
恩師・中村宏之監督もそう話す、壮大なる挑戦だ。

そのためには
「自己ベスト(100m11秒21、200m22秒89、ともに日本記録)を
ただ更新するだけでは、リオでは勝負にならない。
大幅に更新することが必要だと思っている」
という福島選手は、さらにこう続けた。

福島囲み.jpg

「そこに行きつくには、今の自分の全てを上回ることが必要。
でもそれは『あとこれだけ』とか、『ここだけができれば』できるわけじゃない。
心も、身体も、技術も、絶妙なバランスでいかないと。
北京のころは、バランスなんて感じられない、勢いだけだった。
でも、その勢いにあったバランスっていうのもあるんだろうとも思うし、
正解がひとつしかないものでもない。
大事なのは、そのときそのときで、
自信を持てるバランスが取れていること、
練習のときだけでなく、日常生活も含め、
全ての意味でのバランスを大事にしていきたい」

オリンピックイヤーの初練習だったからこそ聞かれた
「きょうの練習はどんな思いで行いましたか?」という質問に対する答えが
彼女の心の真実なのだと思う。
「きょうが、特別な1日ではなく
今までずっとやってきていることの積み重ねのうちの1日です」

千里の道も一歩から。
福島千里選手の一歩は、今、千里の道のどのあたりか。
特別ではない、特別な1日を積み重ねてきたその歩みの先が
かけがえのない、光輝くゴールであることを祈ります。