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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

時の流れをうらむじゃないぞ

時の流れをうらむじゃないぞ―
吉田拓郎の唄にあった一節。
そう、うらむわけじゃない。
便利になることを否定するわけじゃない。
でも、便利が全てじゃなくてもいいじゃん。
振り返ることは、退行じゃない。
温故知新の言葉もあるさ。
捨てられない天邪鬼の性分を自覚しつつ足を運んだのは
札幌・宮の森の、とある写真館。

時の流れをうらむじゃないぞ写真①.jpg
そこは、1936年(昭和11年)創業の老舗。
デジタルを使わず、
昔ながらの銀塩、つまりフィルム写真のみを扱ってきた。
北海道神宮にほど近いこともあり、
お宮参り、七五三、入学・卒業祝い、成人式、結婚式...
人生の様々な節目を一枚の写真に残そうと
多くの人が利用してきたが、
今年4月いっぱいで、その歴史に幕を閉じる。
創業者である父の代から続いてきたフィルム写真が
急速に進むデジタル写真の前に、
世の中から押し出されていくことを実感したのが、
閉店の最大の理由だ。

「今は、写真館に来なくたって、写真はできますからね」
特別、感情の抑揚を作らず、世間話の口調で、
店主の青木泰(やすし)さんは、
決断に至るまでの心の動きを語ってくれた。

時の流れをうらむじゃないぞ写真③.jpg

「去年の冬だったかな。
ひどく吹雪いていて、前も見えづらいような厳しい天気の日。
夜7時30分を過ぎた頃に用事があってスーパーに行ったら、
店頭の証明写真の自動撮影機の前に
女の人が2人並んで待っているのを見たんだ。
吹雪いている日の、夜だよ。
確かに僕の店はその時間は閉まってたけど、
他の店で、開いているところはまだあるし、
寒い思いしないで、そこで撮ればいいじゃない、
とも思ったのと同時に
『ああ、俺たち写真館は、もう必要なくなっちゃったんだな』
って感じたなあ。
そこで待っている人たちの頭の中には
『写真館で撮ってもらう』っていう選択肢はなかったんだよね。
潮時だな、って思った瞬間だった」

撮影の合間の雑談のときのような、
朗らかで、柔らかな口調。
撮り直しのきかないアナログ写真特有の
写される側に強いるちょっとした負担を軽減させるための
技術として身に染みこませたのであろう。
そんな話し方で青木さんは
こんなエピソードも話してくれた。

「昔はさ、就職試験の時期に
『○○で撮った写真を履歴書に貼ると、
試験によく通るらしい』なんて噂が広がって、
験を担ぐ学生さんたちで店が賑わった、なんてこともあった。
自分の人生を決めるかも知れない試験なんだから
担げる験がなんであろうと担ぎたい、
そういう気持ちは分かるからこっちも
『なんとかいい表情で撮ってあげたい』って思いながら撮ったよ。
そんな風に思うのも、
修正がきかない銀塩をやってるからだよね」

時の流れをうらむじゃないぞ写真②.jpg

おっしゃる通りです。
「神通力のある写真館」を求めて都内を彷徨う―。
アナウンサー採用試験をした人なら
共感してもらえる経験のはず。
20数年前のバブル期の体験談で恐縮だが
店頭に飾られた写真を見て
「あっ。○○に受かった××さんだ」と色めき立ち
祈るような思いで店内に入った。
何局か連続して落ち、精気を失った顔でいると、
試験仲間たちが「あそこがいいらしいよ」と教えてくれた。
気分一新、スーツを替え、シャツを替え、ネクタイを替え、
金と時間があれば髪型も替え、
最高の作り笑顔を鏡の前で練習し、
焦燥感と、切なさと、僅かに握りしめた希望を胸に
新たな店に入っていく。
ちょっと切ない、今となっては懐かしい記憶が蘇った。

ついでにこんなものも蘇ってしまった...↓

時の流れをうらむじゃないぞ写真.jpg

一瞬を閉じ込めた一枚だけど、
その前後の時間の流れ、心の流れは
今でも手に取るように思い出せる。
写真というものの価値を、発見した経験でもあった。

デジタルカメラのように、
何枚でも撮り直しができて、仕上がりの加工も容易にできる、
そんな便利さはないし、
だから、需要が減ってしまったのだけど、
一瞬の時間の重みと、その前後の記憶を、
いつまでも頭の引き出しの中に留めさせる
不便ゆえの、不自由ゆえの吸引力の高さは、
消えていくには、さびしすぎる。
時の流れをうらむじゃないぞ、ともう一度、つぶやいてみる。

今月4日、「TVh道新ニュース」内で放送した
「札幌のアナログ専門写真館 最後の春」は
そんな自分へのつぶやきを形にしたものだった。
「青木肇写場」(札幌市中央区宮の森3条10丁目)は
4月30日に、79年の幕を降ろす。
いろいろなことを胸に刻ませてくれたことに
感謝申し上げます。

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