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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

99は、100じゃない

「あの日、あそこにいて、幸せだったな~」
どんなスポーツにもある、そんなプレミアムな経験。
何度も味わえるものではない。
「観に来なきゃよかった」、「なんでこんな試合観ちゃったんだろう」
そんな思いを、何度も重ねて
それでも、「きょうが“その日”なんじゃないか」
そう思える何かを信じて会場に足を運び、
その先にようやく巡り合うことができる、
だからこそ、他には代えがたい、至福のとき。
そんな経験を、することができた。

2月7日。
きたえーるで行われた
NBL(ナショナルバスケットボールリーグ)・
レバンガ北海道 対 東芝ブレイブサンダース。
簡単に両者の関係性を表しておくと、
レバンガは、母体となる企業を持たず、
独立採算で運営しているプロチーム。
日本のバスケット界で、この運営形態で、
余力のあるチームは、ほとんどない。
限られた予算、すなわち限られた戦力で戦っている。
対する東芝は、典型的な「実業団チーム」。
大企業の福利厚生の一環として、
潤沢な予算、快適な環境、
ゆえに、充実した戦力で戦っている。

普通に考えると、厳しい戦いである。
バスケットボールという競技はそもそも、
「番狂わせ」が起きにくい競技。
戦力差がそのまま勝敗につながる、
残酷な性質を持つスポーツだ。
だから、こういうチームの対戦は、
取材するのが切なく感じるときがある。
結果の予想が、どうしても頭をよぎってしまうからだ。

ところが、“それ”は起きた。
しかも、とびっきりの展開で。
身長210㌢、3年連続リーグ得点王の外国人選手に、
日本代表経験者も多数そろえた東芝に
レバンガは食い下がる。
体格面で劣ってもひるまず、粘り強いディフェンスで
ロースコアの展開に持ち込み、
チームただ一人のルーキーが、
攻守にアグレッシブなプレーで
引き離されそうなときにエネルギーを注ぎ続けた。

彼の名は、牧全(まき・ぜん)。
牧1ショット.jpg

身長188㌢、体重86㌔のSG。
愛知県西尾市出身の23歳。
中学卒業と同時に日本を離れ、
母親の母国、アメリカで過ごし、
大学はNCAA2部・ソノマ州立大でプレー。
「自分を新しいところに放り投げたかった。
ファンの熱さと、チームの雰囲気がよかったから
プロキャリアのスタートのチームにしよう」と
縁のない北海道にやってきた。
体格の割にフィジカルが強く、シュート力もあり、
何より本場アメリカで揉まれてきたという経歴から
期待は高かったが、
日米のバスケットの違い、チーム戦術への適応に時間がかかり、
「もともと考え過ぎるのが欠点」ということもあって、
ここまでは、目立つ存在ではなかった。

それがこの日は、全く違った。
「自信を持って、普段の練習のときと同じようにプレーしろ」
仲間たちの後押しと、自らへの呼びかけを胸に
彼はコートで躍動した。
終盤のしびれる局面でも、延長に突入しても
彼はベンチには下がらなかった。
「あいつが、コートで必要だ」
誰にもそう思わせるプレーを見せていたからだ。
1点を追う4Q、残り18秒での逆転ショットを含む、
牧シュート.jpg

自己最高の13得点、3スチール、
何より、延長を含め28分間のプレータイムで見せたパフォーマンスは、
戦力で圧倒する東芝を振り切る
「アップセット」の紛れもない原動力だった。

牧リバウンド.jpg

84対79でレバンガが勝利。
その瞬間、張りつめていたきたえーるの空気は
「この日、この時、ここにいてよかった」という
至福の時へと変わった。

牧選手が去年7月にレバンガに入団したときに教えてくれた
「好きな言葉」を思い出した。

「好きな言葉は、“99は100じゃない”です。
アメリカでトレーナーの方がいつも言ってました。
99%できたとしても、それは100%じゃない。
自分に妥協するな、常に100を目指せ、という意味です」。

牧笑顔.jpg

こうともいえる。
戦力面を単純比較すれば、99、勝敗は予測できる対戦。
でも、99は、100じゃない。
残りの1に、自分たちの可能性をかけろ。
この日の勝利は、それを表現したようなものだった。

99は、100じゃない。
だからスポーツは、面白い。