名伯楽へ 感謝を込めて
陸上女子短距離のトップ選手を数多く育てた
「北海道ハイテクアスリートクラブ」
元監督の中村宏之さんが
4月29日、逝去されました。
2011年に制作を担当させていただいた特別番組で
3大会連続で五輪に出場した
100m、200mの日本記録保持者
福島千里さん(当時は選手)の
原点を巡る機会がありました。
福島さんが陸上を始めるきっかけとなった
十勝の幕別町での体験、
ご両親にうかがった幼少期の陸上への情熱、
親元を離れ下宿生活を送った
帯広南商業高校時代のエピソード
などを取材し
傑出したアスリートがいかにして育まれるかを知る
大変貴重な機会となりました。
制作過程で
福島さんを北海道ハイテクACへ勧誘し
「アジア最速女王」へと導いた中村先生
(取材時はそう呼ばせていただきました)にも
たくさんお話をうかがいました。
どんな質問にも、おおらかに、気さくに
包み込むような優しさで答えてくださいました。
先入観にとらわれない
創意工夫を凝らした練習と環境づくりで
「冬の厳しい北海道では
トップ選手は育たない」という定説を破り
現在の「陸上王国・北海道」に
大きな影響を与えた中村先生。
選手の個性と自主性を大切にした姿勢で
陸上界だけでなく
日本のスポーツ界にはびこっていた
旧態依然とした指導法に一石を投じた
「変革者」であったと思います。
そんな中村先生が
福島さんについて語った言葉で
今も心に残っているものがあります。
「彼女が十勝の雄大な大地で育ったことは
とても大事なことだったんです。
自分を見失うことなく
素直に、真っ直ぐに競技に向き合う。
陸上選手として成長するために必要な人間性の部分、
いわば"伸びしろ"の土台を作ってくれたのが、
十勝の大地で暮らした日々なんです。
あの時間がなければ、今の福島はなかったでしょう」
自身が生まれ育った
北海道という地に根を張り
そこで育った選手たちを
温かい目で見守って成長させてきた
先生らしさが伝わる言葉です。
お粗末な成績でしたが、
学生時代陸上競技をかじった身として
「こんな指導者のもとで競技をしたら
きっと楽しかっただろうな」と、
そして「やっぱり陸上競技って、魅力的だな」と
深く思わせてくださる方でした。
「いつか仕事を抜きにして、
陸上談議をさせてくださいね」と
会うたびに声をかけさせていただきました。
心からの願いでしたが
叶わなかったのが、とても残念です。
この大地から
これからもスケールの大きなアスリートが
誕生するところを
空の上から見守っていてください。
たくさんの学びを
ありがとうございました。