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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

会社魂のたましい⑯ サイクル小野サッポロ(札幌市)

小学3年生のころだったと記憶している。

子どもたちの間で自転車ブームが起きた。

やたらと派手に光るヘッドランプとテールランプに、

子どもには絶対に必要ない30段ぐらいのギアがついた

いわゆる「過剰性能」自慢のスポーツサイクル。

 

クラスで一人ぐらいしか乗っていない高級品だった。

当然、その一人であるはずもない少年は

毎日、下校途中に自転車屋に立ち寄り

自分の憧れの自転車を眺めた。

ただひたすらに眺めた。

彼の憧れは、折り畳み式の

ちょっと小じゃれたシティサイクル。

ただ、ひたすらに眺めた。

眺めているうちに、ブームは去った。

兄のお下がりの、いつもの自転車に

またがる日々に戻った。

憧れが、置き去りにされた気がした。

少し、切なかった。

 

35年以上の歳月が過ぎた。

「自分の自転車を持っている」優越感を

味わえる幸せを噛みしめつつ、

雪解けの進む札幌・円山へ。

 

老舗にして有名店の「サイクル小野サッポロ」。

実は我が愛車もここで買ったものである。

 

およそ半年車庫で眠っていた愛車を

メンテナンスしてもらった。

手際よく、かつ、丁寧なその手さばき。

スタッフの方々の

自転車へのきめ細やかな気遣いや愛情は

ひとめでわかる。

 

ここの特徴は

スポーツサイクルを中心とした専門性の高さ。

数十万する“マシン”がずらりとならび、

周辺アイテムの品ぞろえも豊富。

愛好者の方々ならたまらない空間だろうと

いう空気に満ちている。

「きっと特に用がないときでも

毎日のように顔を出しているんだろう」

とうかがえる人が

スタッフと、専門用語を連発しながら会話している。

 

普通はこういう店は

「そうでもない人」からすると

入りにくい、入っても手ぶらでは出にくい

バリアのようなものに包まれがちだが、

ここは不思議と、そうしたものが一切ない。

老若男女、どういうレベルの客とも

よどみのない会話が進む。

見ていて心地よい光景だ。

 

「うちは、マチの自転車屋さん。

地域の方の生活の中で使う自転車を扱う、

というスタンスを変えたことは一度もありません」

小野盛秀社長はいう。

 

昭和7年創業のサイクル小野サッポロ。

当時の自転車は、運搬のための道具として

今とは異なる価値があった。

戦後、そして高度成長期。

より身近に、より利用目的が専門化していく中

自らの手で自転車に触れ続けていた小野社長は

「これからは、スポーツサイクル」

という思いを抱き、

品ぞろえに特徴を出し始める。

 

現在、小野社長は

北海道のサイクルロードレース界の顔・

北海道自転車競技連盟の理事長。

自転車を売るにとどまらず、

乗る人の求める環境づくりにまで

思いを巡らしてきた結果である。

 

“街の自転車屋”としての、敷居の低さと

“レーサー”たちに寄り添う、専門性と情熱の高さ。

「すそ野」と「山頂」の両方に応える懐の深さが

所狭しと自転車が並ぶ店内に漂っている。

小3のころ、

届かぬ憧れと知りつつも

毎日同じ自転車を眺め続けた、

そんな子どもを優しく見守ってくれた

あの自転車屋の空気を

ほんの少し思い出した。

 

「サイクル小野サッポロ」の会社魂は

4月14日の「けいざいナビ北海道」で。