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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

13人目のチームメイト

人とスポーツとのかかわり方は、さまざまだ。
プレーするのは当然のこと、観るのも、応援するのも、語るのも、
しゃべるのもあり。(いや、これは仕事か…)
もちろん、「スポーツにはとんと興味がない」という人もいるので、
人類普遍の法則、なんてことは断言できないが、
人がスポーツとかかわることで共通するのは
「前に向かって進もう」という気持ちにさせてくれるところではないかと思っている。
身体を動かし、いい汗かいて
「ああいいリフレッシュになった」とつぶやいたときに味わうもの、
赤の他人のプレーだけど、超一流のパフォーマンスを目にして
「これはすごい」とうめいたときに感じるもの、
大切な誰かが頑張る姿に声を枯らし、
結果を見届けた瞬間にこみあげるもの、
同じ感動を共有できる誰かと、名プレー、名シーンについて語っているときに
胸に広がるもの。
形や熱量は様々だけど、共通するのは
「よし、これからまた、前に向かって一歩進もう」
という感情なのではないかと
あくまで個人的な体験からくるものだが、思っている。

ならば、この光景に出くわしたら、どう思うだろう。
江別市出身のその人は、
北海道のアマチュアバスケットボール界の
名プレーヤーであった。
東海大四(現・東海大札幌)でインターハイベスト8、
U-18の日本代表にも選出された。
黄金時代の日体大に進学し、インカレ4連覇にも貢献。
そして卒業後は札幌市役所でプレーを続け、
全日本総合選手権(オールジャパン)にも出場。
北海道代表チームの中心選手として、全国の舞台でも気を吐いた。

30歳になろうかというとき、
北海道にプロチームが誕生。
「プロのバスケットボール選手になる」
長年の夢が目の前に開けたかに見えたが、
すでに仕事をしていた彼は、その夢に踏み出すことなく、
アマチュアプレーヤーとしてコートに立つ選択をした。

引退後、中学校の教員に転じ、
指導者として、未来のトッププレーヤーを育成することに
新たな夢の実現に向かって歩んでいた彼に、
突然、病魔が襲う。
病名は、悪性リンパ腫。
入退院を繰り返し、闘病する姿を見て、
病気に立ち向かう後押しをしようと動き出したのは、
彼の大学時代の仲間たちだった。
目指したのは「あの夢」を実現させること。
現役時代プレーすることが頭をかすめた
北海道のプロチームに陳情し、
そしてチームは、統括するリーグに働きかけた。
すでに、選手の登録期限は過ぎている。
ベンチ入りメンバーの上限12人という規定も、超えてしまうことになる。
リーグは、臨時理事会を開き、特例を認めた。
対戦相手も、この特例を快諾し、
かくて「1日だけのプロ選手契約」が実現した。
治療の最中にあり、実際にプレーするのは厳しいが、
その日、彼は朝から、チームの一員として、
他の選手たちと同じ時間を過ごす。
そして何より、リーグの公式記録に
彼がチームのメンバーであったことが、刻まれる。

この話は、実話である。
4月20日、札幌で、
日本のスポーツ界では極めて異例の
「1日契約選手」の会見が行われた。
レバンガ北海道と契約した「彼」は、
佐藤竜弥(さとう・りゅうや)選手、38歳。
佐藤竜弥1ショット②.jpg 
映像提供:北海道バスケットボールクラブ

運営会社の代表兼選手・折茂武彦は言う。
「彼の加入は、大きなエネルギー。一緒に道民へ勇気を与えたい」

ヘッドコーチ・水野宏太は言う。
「チームの歴史で初のプレーオフを決めた
記念すべきシーズンのホーム最終戦を、
彼を迎えて臨めることをうれしく思う。
クラブとしても、バスケットを通して北海道の皆さんに
勇気を与えることを目指してやっている中、
リーグ、そして彼の決断を讃えたい。
彼を含めた選手全員、そしてチーム関係者全員で、
ホーム最終戦をいいゲームにしたいと思う」
 
佐藤・折茂・水野3ショット②.jpg

映像提供:北海道バスケットボールクラブ

佐藤は言う。
「登録を実現してくれた方々に、本当に感謝しています。
病に倒れて治療している時は、毎日涙が止まらず、
何をしても涙してましたが、その時に仲間たちがいろいろ動いてくれて、
こういう機会を作ってくれていることにまた涙して。
頑張らなければいけないという思いもこの時から感じ出した。
病気に打ち勝ち、またバスケットに携わり、
生徒が待つ教壇にも戻り、応援に恩返しをしたい」

会見の様子②.jpg

映像提供:北海道バスケットボールクラブ

会見場にいた、佐藤の息子は言った。
「会見で見た父のユニホーム姿は、カッコ良かった。
僕も将来、プロ選手を目指したい」
 
試合当日の、彼の背番号は23。
「憧れのプレーヤー」という
“バスケットの神様”マイケル・ジョーダンの背番号である。
そのジョーダンの言葉に、このようなものがある。

Out of my way.Your fate. I’m going through.
 ―運命よ、そこをどけ、俺が通る。

13人目のプレーヤー・佐藤がベンチに座る試合は
5月2日、北海きたえーる。
レバンガ北海道 対 三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ戦。
誰が見ても、どんなきっかけで会場にいても、
前へ、一歩進む気持ちに満ちた時間となるだろう。

会見出席者グループショット.jpg

映像提供:北海道バスケットボールクラブ