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まだ、しゃべるんですかぁ〜!?

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

大藤 晋司 アナウンサー

出身地
茨城県高萩市
入社
2003年4月

北海道陸上界躍進の中、陸上OBのつぶやき

真夏を感じさせるような暑い日の合間を縫うように
その日は朝から雨。しかも途中から、バケツをひっくり返したような豪雨になった。

屋根を叩く雨の音がひときわ強く響く中、そのアスリートは
シャープな動きで、トラックを蹴っていく。
昨今、ひときわ活気のある、北海道の陸上競技界を象徴する存在である
寺田明日香選手を取材した。
日本選手権女子100mハードル2連覇。しかも決勝で
世界選手権参加B標準記録を突破し、初の代表に決定。
100m、200mの日本記録を持ち、ともに世界陸上に出場する福島千里、
2007年大阪世界陸上代表の北風沙織とともに
「北海道スプリント3人娘」とも呼ばれる期待の選手だ。
インタビューすると、素直で、明るくて、過不足なく自分の言葉で自分を表現できる19歳。
彼女の所属する、恵庭市の北海道ハイテクACは、
日本でここだけという、長さ130メートルのインドアトラックがある。
雪の降る冬はもちろん、この日のような雨のときでも、
体を冷やさず、集中力を保ったまま、予定通りのメニューをこなすことができる。
2時間ほどの彼女の練習をじっくり見させていただいた。
ダッシュ、ハードリング、トラック上での立ち振る舞いには
トップアスリートが内在するエネルギーに満ちている。
たとえ「静」の状態であっても、身体から漲るものが「静」を感じさせないのだ。
と思っていると、隣にいたスタッフがつぶやいた。
「陸上の練習って、孤独だよね」
それは、自分からすると、意外な視点だった。
そう思ったことは、今まで一度もない。
きっとそれは、自らも陸上競技の経験があるからだろう。
(インタビューのとき、「僕も昔、陸上やってたんですよ―。寺田さんが生まれる前ですけどね」と言ったら、「ああ...」と苦笑されてしまった。年齢の壁を自ら作ってしまった、と実感した)
自らの体験から、陸上競技の本質とは、「自己の内面との対話と葛藤、そして克服」にあると思っている。
傍から見ると一人でポツンとたたずんでいるように見えるとき、アスリートはずっと、内面の自分と対話している。
これは、結構忙しい。外から見ている人はそう見えないだろうが、当事者は「忙しい」と感じる。少なくとも、「一人ぼっちで、切ない」と感じることは、まずない。その逆の状態が、普通だ。そして、この対話の時間は、なかなか楽しく、充実しているものだ。感性の優れた友人と、喫茶店で大いに語ったあと、店を出たときの感覚に似ている(分かりにくいか?)。
大学時代に読んだ小説に「長距離走者の孤独」(アラン・シリトー著)というものがあったし(タイトルに惹かれて読んだ―もちろん、逆説的な興味)、円谷幸吉さんの悲劇などもあり、陸上=孤独という図式は、大方の人のイメージになっているのかなと想像はできるのだが、経験者の視点からいうと、そうは思えない。
孤独に耐えて走りぬくというイメージが強い君原健二さんも、かつて、そんなことを言っていたと記憶している。
だから、寺田さんの動きを見ているのは、楽しかった。
「今、どんな対話をしているんだろう」と想像することで、自分の内面に、かつて経験した、対話の感覚が蘇ったからだろう。
 もちろん、一流アスリート(指導する中村宏之監督の言葉を借りれば「かつて日本人が到達したことのない、未知の領域を行く選手になる」)の内面との対話のレベルは、ちっぽけな、いち陸上経験者の想像を超えたものだということは言うまでもないけど。
 幾多の「内面との対話」を繰り返し、今後彼女がどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。
これほどの逸材が北海道にいる幸運を、陸上"卒業生"として感じている。
そんな彼女が地元で走るレースは、今度の日曜・12日の南部忠平陸上。
もちろん、取材に行きます。