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2016.4.21
13人目のチームメイト

人とスポーツとのかかわり方は、さまざまだ。
プレーするのは当然のこと、観るのも、応援するのも、語るのも、
しゃべるのもあり。(いや、これは仕事か…)
もちろん、「スポーツにはとんと興味がない」という人もいるので、
人類普遍の法則、なんてことは断言できないが、
人がスポーツとかかわることで共通するのは
「前に向かって進もう」という気持ちにさせてくれるところではないかと思っている。
身体を動かし、いい汗かいて
「ああいいリフレッシュになった」とつぶやいたときに味わうもの、
赤の他人のプレーだけど、超一流のパフォーマンスを目にして
「これはすごい」とうめいたときに感じるもの、
大切な誰かが頑張る姿に声を枯らし、
結果を見届けた瞬間にこみあげるもの、
同じ感動を共有できる誰かと、名プレー、名シーンについて語っているときに
胸に広がるもの。
形や熱量は様々だけど、共通するのは
「よし、これからまた、前に向かって一歩進もう」
という感情なのではないかと
あくまで個人的な体験からくるものだが、思っている。

ならば、この光景に出くわしたら、どう思うだろう。
江別市出身のその人は、
北海道のアマチュアバスケットボール界の
名プレーヤーであった。
東海大四(現・東海大札幌)でインターハイベスト8、
U-18の日本代表にも選出された。
黄金時代の日体大に進学し、インカレ4連覇にも貢献。
そして卒業後は札幌市役所でプレーを続け、
全日本総合選手権(オールジャパン)にも出場。
北海道代表チームの中心選手として、全国の舞台でも気を吐いた。

30歳になろうかというとき、
北海道にプロチームが誕生。
「プロのバスケットボール選手になる」
長年の夢が目の前に開けたかに見えたが、
すでに仕事をしていた彼は、その夢に踏み出すことなく、
アマチュアプレーヤーとしてコートに立つ選択をした。

引退後、中学校の教員に転じ、
指導者として、未来のトッププレーヤーを育成することに
新たな夢の実現に向かって歩んでいた彼に、
突然、病魔が襲う。
病名は、悪性リンパ腫。
入退院を繰り返し、闘病する姿を見て、
病気に立ち向かう後押しをしようと動き出したのは、
彼の大学時代の仲間たちだった。
目指したのは「あの夢」を実現させること。
現役時代プレーすることが頭をかすめた
北海道のプロチームに陳情し、
そしてチームは、統括するリーグに働きかけた。
すでに、選手の登録期限は過ぎている。
ベンチ入りメンバーの上限12人という規定も、超えてしまうことになる。
リーグは、臨時理事会を開き、特例を認めた。
対戦相手も、この特例を快諾し、
かくて「1日だけのプロ選手契約」が実現した。
治療の最中にあり、実際にプレーするのは厳しいが、
その日、彼は朝から、チームの一員として、
他の選手たちと同じ時間を過ごす。
そして何より、リーグの公式記録に
彼がチームのメンバーであったことが、刻まれる。

この話は、実話である。
4月20日、札幌で、
日本のスポーツ界では極めて異例の
「1日契約選手」の会見が行われた。
レバンガ北海道と契約した「彼」は、
佐藤竜弥(さとう・りゅうや)選手、38歳。
佐藤竜弥1ショット②.jpg 
映像提供:北海道バスケットボールクラブ

運営会社の代表兼選手・折茂武彦は言う。
「彼の加入は、大きなエネルギー。一緒に道民へ勇気を与えたい」

ヘッドコーチ・水野宏太は言う。
「チームの歴史で初のプレーオフを決めた
記念すべきシーズンのホーム最終戦を、
彼を迎えて臨めることをうれしく思う。
クラブとしても、バスケットを通して北海道の皆さんに
勇気を与えることを目指してやっている中、
リーグ、そして彼の決断を讃えたい。
彼を含めた選手全員、そしてチーム関係者全員で、
ホーム最終戦をいいゲームにしたいと思う」
 
佐藤・折茂・水野3ショット②.jpg

映像提供:北海道バスケットボールクラブ

佐藤は言う。
「登録を実現してくれた方々に、本当に感謝しています。
病に倒れて治療している時は、毎日涙が止まらず、
何をしても涙してましたが、その時に仲間たちがいろいろ動いてくれて、
こういう機会を作ってくれていることにまた涙して。
頑張らなければいけないという思いもこの時から感じ出した。
病気に打ち勝ち、またバスケットに携わり、
生徒が待つ教壇にも戻り、応援に恩返しをしたい」

会見の様子②.jpg

映像提供:北海道バスケットボールクラブ

会見場にいた、佐藤の息子は言った。
「会見で見た父のユニホーム姿は、カッコ良かった。
僕も将来、プロ選手を目指したい」
 
試合当日の、彼の背番号は23。
「憧れのプレーヤー」という
“バスケットの神様”マイケル・ジョーダンの背番号である。
そのジョーダンの言葉に、このようなものがある。

Out of my way.Your fate. I’m going through.
 ―運命よ、そこをどけ、俺が通る。

13人目のプレーヤー・佐藤がベンチに座る試合は
5月2日、北海きたえーる。
レバンガ北海道 対 三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ戦。
誰が見ても、どんなきっかけで会場にいても、
前へ、一歩進む気持ちに満ちた時間となるだろう。

会見出席者グループショット.jpg

映像提供:北海道バスケットボールクラブ